よもやま話(その3)
パーティコンパニオンと飲物原価率
ホテルといえども一般企業や商店と同じように経費や原材料を節約してより良い商品・サービスを目指すのは同じです。しかし実施した節約策が結果としてユーザーの負担増につながる場合は失敗と言わねばなりません。自社の都合とユーザーの利益を両立するのはなかなか難しいのです。本日の記事はユーザーから喜ばれて、しかもホテルの経費削減に貢献した施策についてのお話しです。
皆さんはパーティコンパニオンはご存知ですか?
パーティコンパニオンとは、主に立食パーティなどで来客の接待を行う女性のことで、料理の取り分けや飲み物のサービスなどを行います。白いブラウスに黒色のロングドレスというのが一般的な制服なのですが、通常行われる宴会では余り見かけることはありません。ですが、ハイクラスのパーティでは良く見かける光景です。
筆者はある時期からこのパーティコンパニオンを結婚披露宴に配置するようにしました。
コンパニオンたちの役目はお客様のお迎え(迎賓)と送り出し(送客)、それと飲み物のサービスです。一体なぜ結婚披露宴にパーティコンパニオン?と思われるかもしれません。
今回はそれをお話ししたいと思います。
結婚披露宴では飲み物が提供されるのはご存知でしょう。特にアルコール類は切らすことができません。ビール瓶がカラッポになったり、日本酒が足りなかったりすると、これらは全て「このホテルはサービスが悪い」という評判を招くことになってしまいます。それではビールや日本酒を切れ目無く提供すればそれでいいかというとそういうわけでも無いのです。
ほとんどの皆さんは気付かないと思いますが、披露宴が終わった後のテーブルには飲みかけのビール瓶や酒瓶が大量に残されているのです。しかもビール瓶にはグラス一杯分を注いだだけで大部分が残っているものや、中には全く手を付けられていない日本酒の瓶が殆どのテーブルに残っています。これらの残った酒類は既に栓を開けてあるので全て廃棄されてしまいます。もちろんこれらの廃棄される酒類は婚礼披露宴の費用として新郎新婦に請求されるのです。ホテルとしては売上が上るので放っておけば良いのですが、それにしてもビックリするような量なのです。
ある時の社内会議でこの酒類の廃棄の件が取り上げられました。余りにも廃棄する酒類が多いというのです。ちょうど「飲み物飲み放題(フリードリンク)」のサービスを始めようとしていた頃でした。コスト削減(酒類ロスの削減)のいい知恵はないか、みんな真剣に議論しました。そして出てきたアイディアがパーティコンパニオンでした。
従来、婚礼のサービスはサービス専門の係員がある一定の割合いで配置されていたのですが、サービス係は料理を出したり、お客様が食べ終わった皿を下げたりします。さらにテーブル上のお酒の状況を見て追加でビールや酒を出したり、またお客様の注文に応じて焼酎やワインなども提供します。子供用の料理を出したり、落としたフォークの代わりを持参したり、大変に忙しいのです。しかもサービス係は1テーブルだけを担当しているのではありません。一般的に2テーブル(1テーブルで6人~8人掛け)、熟練したサービス係なら一人で3テーブルを担当します。ですからこんなに忙しいサービス係はビール瓶の残り具合に気を配る余裕が無いのです。
そこでパーティコンパニオンを飲み物専従で配置することになりました。彼女達が行う仕事は飲み物が途切れないように常にテーブルを廻って補充することです。そして、残って誰も飲まないビールや酒を必要と思われる他のテーブルに移動させます。
それというのも実は結婚披露宴の酒類の消費は、あるテーブルでは沢山飲まれるけど隣のテーブルでは全く飲まれないということが結構多いのです。そこで飲まない人のところにある酒類を飲む人のところに移動させることにしたのです。そして、パーティコンパニオンは飲み物専従ですから4テーブルに一人の割合で配置し、サービス係は主に料理の提供で3テーブルに一人を配置しました。
その結果は劇的でした。消費された飲み物はそれ以前のデータ平均と比較してなんと!20%ほどの消費減少になったのです。披露宴後に残った酒類も劇的に減少しました。もちろんフリードリンクですからお客様からはなんの苦情も有りません。それどころかパーティコンパニオンがいることで「酒が途切れることがない」「会場の雰囲気が高級になった」などの声が聞こえるようになりました。
ホテルにとっては飲み物ロスが減って原価率が下がるし、お客様にとっては披露宴会場の雰囲気が良くなって、しかもサービスが良くなったと感じていただけたのです。
(実はパーティコンパニオンの費用は、当時は一人2時間で8,000円ほどする高額な出費でしたが、サービス係の人数を削減できたし、飲み物原価率が下がったことで十分に元が取れました。その上、あのホテルはサービスが良いという評判をいただけたのですから大成功でしょう!なお、パーティコンパニオンの費用はお客様に請求することはなく、全額がホテルの負担でした。)
こうしてフリードリンクが定着し、パーティコンパニオンが定着し、次第に婚礼のお申込みも増えていくようになりました。もちろんこれらの他に婚礼料理の種類を増やしたり、販売促進の取組みも行ったのですがこれらは別の機会にお話しすることにいたします。